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『この恋、青春により。』 雑感

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分かりやすく言うと「アレだけどオンリーワンなゲーム」。あるいは「名作になりそこねた」作品。エンディング&挿入歌の『Missing』(https://www.youtube.com/watch?v=0qblmEM24PQ)は本当に良い歌で、ゲーム内容をよく表してる歌ではあるのですが、しかし残念ながらゲームの方がよく表せてなかった。ぶしつけに言ってしまうと、千春シナリオや京子シナリオはこの歌みたいなお話を作りたかったんだろうけどさあ!!すっごいわかるんだけどさあ!!でも出来上がったものはさあ!!って感じです。コンセプトは魅力的だしそれはプレイすれば感じ取れる。そしてその部分は、現時点でも素晴らしい。しかしぶっちゃけた言い方をさせて頂くと本当にこれ完成度というものが……!

まずシステム。エロゲー批評空間とかではメタクソに言われてまして、そして実際かなりアレではありました。MAP上にキャラが配置されていて、そこを選んでいくとその子にまつわるストーリーが展開されて、恐らく内部では好感度か何かが上がっていて(外からは見えないので恐らく)、それでルート選択がなされていく、という形式です。選べるキャラにはサブキャラとか男友達とかもいて、学校生活感とか世界が広がっていく感とかありますね。……と言いたいところなんだけどさあ!!すっごいわかるんだけどさあ!!でも出来上がったものはさあ!!って感じです。
まずこの形式でありながら女の子の同時攻略がほぼ不可能で、途中までは同時攻略で…というのは可能ですけど、結局ストーリーが歯抜けになってしまうのであまり意味はない。サブキャラを選んでも味気ない内容であることが殆どでこれも正直あまり意味がない。特定の女の子だけを選んでいれば一回のプレイでその子のイベントは全部見れる。選べるキャラが出てこないで行動終了を選ばさせられるだけのことがかなり多い(だいたい4回に1回か5回に1回くらいはそうなる)。しかもパッチ当てないと同じイベント連発バグとか出てまともにプレイできないらしい。パッチ当てても同じイベント何度か見させられたるすることありますけど。要するに『Sugar+Spice!』みたいなシステムなんですけど、ぶっちゃけ完成度が死ぬほど低くてめんどくさかったりストレス溜まるしとマイナス部分が多すぎるわけです。とはいえ、しかしですね、この形式にすることで、学園生活とそこにおける選択や行動、つまりそれにより創出されるタイトルにもなってる「青春」感の醸造には一役買っていて、だからこそオンリーワン的な独特の魅力があるわけでして、その点は非常に良いですし、こういったシステムに取り組むことそれ自体はこのゲームに欠かせない部分だと思います。問題はそのシステムの完成度の低さだ。実に勿体ないです。

そしてシナリオはさらに勿体ない。ルートが4つあるのですけど、球技大会とか河川敷の野球とか話が被りまくってる箇所が結構ありまして、しかもテキストがほんのちょっとだけ違ってるせいで既読スキップが使えなかったりするのがまず痛い。裏表になってるからしょうがないと言えばしょうがないですが、京子と千春の途中までは(特に夏のお祭りのあたりは)あまりにも同じすぎるっていうかあまりにも同じにしてしまっているのがかなり問題でして、たとえば千春シナリオなんて主人公は京子のこと好きだなんて一言も言ってないし、プレイヤーはキャラ選択で京子を一度も選ばずにずっと千春だけ選び続けているにも関わらずなんでかこの主人公は「俺が本当に好きなのは京子だった」みたいなこと言い続けながら千春と付き合いますし、京子シナリオの場合はその逆でプレイヤーはキャラ選択でずっと京子を選んでて一度も千春を選んでない全く近寄らない関係しようとも思わないにも関わらずなんでかこの主人公は千春とキスします。つまりプレイヤーの心情とも、プレイヤーが推測している主人公の心情とも、MAP上のキャラ選択で実際にプレイヤーが採ってきた行動とも、全っ然関係ない話がなんかいきなり展開されるわけです。この辺が本当に勿体無い。幼なじみと友人との、思いを秘めてるからあるいは抑えてるからこそ起こるすれ違いが初恋を成就させたり壊していくっていうお話のコンセプトは良いんだけどさあ!!すっごいわかるんだけどさあ!!でも出来上がったものはさあ!!としか言えない。根本的にプレイヤーへの根回しが足りてないんすよね。ざっくばらんに言えば説明不足とか描写不足という言葉になるのでしょうが。だから本当に勿体ない。もうちょっと丁寧に作るだけでこのコンセプトをもっと生かせたものになったのではないかと思ってやまないのです。

とはいえ、ここから次の段までかなりネタバレなこと書きますが、京子シナリオのラストなんかは本当に素晴らしいものでして、個人的に一番オンリーワンなのはその部分というか、あれをそのうちまた再プレイしたくなるだろうからこそアンインストールできないなってところはあります。あの幼なじみだからこそ描けるもの、幼なじみ特有の過去から現在そして未来への地続き感は素晴らしい。あのエンディングの子供時代から今までが地続きであるというものは幼なじみにしか起こり得ないものであるし、それをこう綺麗に描かれていてはもうこちらとしては感服する以外何もありません。
基本的にシナリオは千春と京子は表裏一体なんですけど、エピローグも千春と対になってるところも面白い。千春エピローグは、「アメリカに引っ越した千春に会うために主人公がメジャーリーガーになってアメリカに行く」という、「俺は君と逢うためにメジャーリーガーになった!」とか言い出す、いや別にメジャーリーガーじゃなくてもアメリカに行く方法いくらでもあるじゃん!一般人でもアメリカで職を持てるじゃん! というツッコミを入れたくなってしまう最高にロックな代物であるんですけど、しかし社会人野球選手になって、地元で・幼なじみと・EDムービーのように幼い頃から地続きであるという京子エピローグと完全に対になっている。しかも京子エピローグは親の進め(アメリカに渡ってトミージョン受けてマイナーリーグに入る)を断って、つまり親の導きで手術して親父と同じメジャーリーガーではなく京子と居ることを選ぶという、”これから一緒に歩んでいくのは京子だ(ニアイコール親父とのある種の決別)”を示唆しているわけです。これまでの親父との関係性も含めると。逆に千春エピローグでは、まあ親父の導きでアメリカに行ったのかどうかは分からないですけど、しかし親父と同じメジャーリーガーという道を歩むことによって、”これから一緒に歩んでいく相手(千春)”とまた共に歩めるようになっていく。同時に地元との決別、今までの歩みとのある種の決別――つまり幼なじみとの決別も示唆しています。要するに真逆に近いと言えるわけです。だからこそお互いのシナリオが際立ってくる。


それだけに前述しましたが色んな部分をもうちょっと丁寧に丹念に描いてくれたら(あとシステムどうにかしてくれたら)傑作になったかもしれないとは本当に思わされます。たとえばMAPシステムがありますけど画面遷移にタメがないから感慨も準備もなくて味気ないところとか。たとえば文化祭とか夏祭りも「いよいよ明日だ」みたいな描写なくある時いきなり本番がはじまったりしますし(「もうすぐ」みたいな描写はありますけど)、そもそも大半のエロシーンがそんな感じで盛り上がったからとかじゃなくいきなりエロシーンに突入していることがめっちゃ多いところなんかも。日常描写から1クリック後にはもう脱いでてさあこっからエロだぜみたいになってる。あ、それはそうとエロはかなり良いです。てゆうか絵がめっちゃくちゃ良いです。『少女アクティビティ』とかもそうですけどここの絵と塗りはエロシーンにおいては最高クラスですね。独特な構図も個人的には好き。
いや実際なんだかんだ言いましたが良いところもめっちゃあるのです。あのローテンション系というか厭世的さと達観さと若者らしいめんどくさい・だるい感と現実的・生活感が絶妙にミックスされている若林の可愛さとか、過去の彼女も踏まえると最高に可愛いしいつも中に出してるのに妊娠しない(ことが大多数)というエロゲ最大の謎に鋭く…ってほど鋭くはないけど切り込んでいく凛ちゃんはキャラもシナリオも良いし、他のサブキャラも良いしパッチで攻略キャラも増えたりする。そういう良いところ・好きなところ・愛しく思えるところは少なくないし、コンセプトは強く描いてあるし、けれど色々とアレな部分が多いんですよ。けれどキャラやらエロやらコンセプトやら魅力的なところがあって、それだけで輝いている、けれどそれゆえ勿体ない。そんな作品ではありました。